黒煙の珠艶
 煙は上へとのぼってゆく
 空が彼らを欲しているからだ
 私は火を起こす
 原始的で簡素に
 私は薪を持っておらず
 代わりといってははなんだが
 名前をくべた
 誰の名前か?
 残念ながら教えることはできない
 もう燃やしてしまったし
 紙の上では活躍する文字も
 大気の中では役に立たぬ
 流浪浮浪の異邦者
 煙は黒闇、孤立色
 だけど、私のくべた薪は
 誰からも愛された
 それもまた無形の事実
 勝手になびけ、気体のゴミよ
 勝手に消えろ、薪人よ
 煙を吸い込み袋ふくらむ
 フオース
  フオース
   スースッス
 肺はきまぐれ己を愛でるを知らず
 味もなし
 それでいいのか、お前の名前
 苦くも甘くもなく、煙は繊維となる
 いっそ服でもつくろうか
 お前のために
 はたおり機はどこにある
 か細い身体はどこにある
 いくらでも探せばいい
 だがお前はもう「名無し」だ
 煙の人だ
 最後にはなにもの残らぬ異邦の人だ
 燃やした名前はなんだっけ?