「く、ここは・・・・」
茫洋とした頭で覚醒したハンスは、慣れ親し
んだ茶色がかった天井を見上げた。働きバチ
たちが苦心して作り上げた、蜂の巣。そうだ
、おれは小川へいつもの偵察任務に行ったん
だ。そして、レイミーと出会って、あの黄色
い熊と・・・・。
「そうだ!レイミーは・・・・痛っ」
起きあがった途端に激痛があった。なぜ蜂の
巣にいるんだ。そもそもここはオレの故郷の
第3プロポリスなのか?湯水のごとく流れ出
る記憶のマトリクス。それを止めたのは野太
い雄蜂の声だった。
「気がついたようだな」
ハンスより一回り大きい体に、それにマッチ
した雄々しい黒と黄色のストライプ。その巨
体を揺らしながら、雄蜂はゆっくりと近づい
てくる。
「おれは第7プロポリス第2連隊付衛生部隊
軍医准尉、マホガニーだ」
第7プロポリスだと?ハンスは自分の故郷か
らそう遠くない蜂の巣に来ていることに驚い
た。
「そうだ。第3プロポリス・・・・おれの故
郷はどうなったんだ!」
ハンスは6本中4本の腕でマホガニーの体を
揺さぶった。頭の痛みなどにかまっていられ
ない。
「残念ながら」
マホガニーはそう言って、首を振って黙りこ
くってしまった。
「他の、他の奴らは無事なのか」
ハンスは質問を変えた。
「ああ、300匹ほどは助けだした。民間蜂
がほとんどだったが」
なんてことだ。ほぼ全滅じゃないか。ハンス
は、彼なりに救出活動に尽力したが、それで
も助けられたのはものの数十匹。あとの仲間
はもう・・・。第3プロポリスには役二万匹
の蜂がいた。
「君みたいな軍人蜂は確か20匹ほどだ。も
し君の体調がいいなら、面会もできるはずだ
が、どうだ?」
「ああ、ぜひそうしてくれ」
部屋から出ようとするマホガニーの背中を見
ながら、ハンスはレイミーのことを想った。
お前の敵はオレが取ってやる。どうやって?
の疑問はひとまず後回しだった。そうでもし
ないと彼自身、あのプーさんの恐怖に押しつ
ぶされそうだったのだから。

つづく